全身脱毛症で経験してきたこと

かつら購入

かつらを購入することにしました。
検討してから購入するまでをここにつづります。

かつらが欲しい

突然ですが、かつらが欲しくなりました。
特に理由はありません。
しいていえば、 髪の毛がある自分を見てみたくなったから、 です。
小学校1年生で全身脱毛症になったので、
髪の毛が生えている自分がどんな風になるのか、 知りません。
髪の毛があるということがどういう感覚なのか、 知りません。
それを知りたくなりました。

社会人になって貯蓄が十分に貯まったのも理由の一つです。
冒険してみることにしました。

かつら作製会社を探す

かつらを作ってくれる会社を調べました。
代表的なメーカというのはすぐに見つかりました。
アートネイチャーやアデランスやスヴェイソン。
テレビCMや広告を大々的に行っている企業です。
次に評判を調べました。
ネットのコメントというのは僕自身は信用していないのですが、 あまり良いコメントではないように思いました。
購入を決断できない、そんな思いになりました。
もっと満足のいくメーカはないものか、と考えました。

次に考えたことは、テレビや映画の特集メイクをしているところです。
よくよく考えてみると、映画やドラマの俳優は、
さまざまなキャラクターになりきるために、特殊メイクをしています。
それに近いものを扱っている会社を探せばいい。
そう考えて、大手メーカーに限らず、いろいろとかつらを扱う企業を探しました。
かなり日数を要したと思います。
インターネットをすみから隅まで探したのでは、と思ったくらいです。
そして、信頼できそうな小さなメーカを見つけました。
小さい製造元なので、知名度はほとんどありません。
自分でもよく見つけたなと、思いました。

連絡をとる

さっそく事務所にコンタクトをとることにしました。
まず、メールで連絡しました。
ご都合の良い日にいらしてください、という内容のメールをいただきました。
素朴なやり取りでいい感じです。
その後、伺う時間を決めるために電話しました。
女性の方が電話に出ました。
こちらの都合の良い日を伝えると、その日はあいにく別の方で予約済みでした。
小さいお店なので、1人予約が入っていると、別の方は対応できないようでした。
そういう話をしていただくと、自分が伺ったときも別の方と会わなくていいんだ、という安心感が得られました。
やりとりをした結果、希望日の次の日の午後、ということで決定しました。
駅まで車で迎えに来てくださるとのことでした。
緊張しますが、当日が待ち遠しくなりました。

事務所に訪問する

目的地の最寄りの駅に到着しました。
初めての駅です。
集合時間の少し前にスタッフの方が携帯電話に電話をくれました。
電話でお互いの現在地を伝え合い、お会いすることができました。
スタッフの方の服装は普段着だったので、緊張しませんでした。
車に案内していただくと、車の中には別の運転手の方がいる。
挨拶をして車に乗り込みました。
スタッフの方2名と僕1人。
車の中では、挨拶と簡単な自己紹介、そして世間話をしました。
そろそろ到着という頃に、今日はいろいろ試してくださいと言われた。

事務所に着き、部屋に案内してもらいました。
リビングのような場所に着くと、席に座って少し話をすることになりました。
そして、スタッフの方が、お店のコンセプトを丁寧に話してくれました。
とても好感が持てるものでした。
さらに、かつらを始めた経緯や、実績を話してくださり、
肝心のかつらについてもいろいろと教えていただきました。
その後、僕がかつらが必要になった理由というのを話す時間がありました。
いろいろと共有してもらえるところも多かったので、とてもよい印象でした。
1時間近くは話をしていたと思います。

かつらを試着する

いよいよ、かつらを体験するときになりました。
かつらにも数種類あるようで、いろいろと触らせていただきました。
そして、実際に頭につけてみる。
頭のサイズが合っていないのでぶかぶかでしたが、 とても新鮮な気持ちになりました。
鏡に映る自分の顔。
髪の毛があると、思っていた以上に印象が変わるようです。
思わず、じっくり自分の顔を見てしまいました。

いくつかのかつらも同様にしてつけてみました。
たしかに種類によって少し印象が違います。
話によると、髪型によってかつらの種類をかえるのだそうです。
髪の毛は短いほうが良いという希望を伝えたところ、いろいろと特徴を教えてくれました。
この種類のかつらだと、短い髪にはこういうメリットがあるけれど、このへんが悪い。
という具合で、すごく丁寧に教えてくれました。

その後、実際にかつらを取り付けする作業について教えてもらいました。
自分の手で着けたり外したり、いろいろと試させてもらいました。
慣れればそれなりに簡単にできそうです。
イメージがつかめました。

眉毛の書き方、も教えてもらいました。

かつらを注文する

かつらの試着をさせていただいて、いろいろ勉強になりました。
そして、僕は、その場で注文することをお店の方に伝えました。
普通の人なら、少し考える日数をあけてから、購入するのかもしれません。
でも、僕の場合は、満足できそうであれば、その日のうちに購入することを心に決めていました。
理由は、かつらのメーカを調べることに疲れたからです。
どのメーカを見ても、悪いコメントが書いてある。
最も良いところを選んだという気持ちがあったので、特に悪いことがなければここにするつもりだったのです。
正直に言うと、試着した後は、ぜひここで作りたいという前向きな気持ちになっていました。
だから、幸いにして、迷わなくなっていました。

かつらを注文する意思を伝えると、その場で頭の型をとってくれることになりました。
僕の頭の形状の型から、僕の頭にぴったりの、世界唯一のかつらを作ってくる。
これがここのメーカの素晴らしいところです。
頭のカタチを再現するから、できてくるかつらは頭にぴったりと収まるそうです。
型をとる作業自体は、1時間弱で終わりました。

話をして、試着をして、型を取る。
ここまでで、数時間の時間がかかかりました。
でも、とても満足でした。
最後に、契約書にサインをして、注文が完了しました。
完成するのは数か月後になるとのこと。

次の打ち合わせは、完成したかつらを使ってカットをするそうです。
髪型を決めてくること、という宿題を言い渡されました。
数か月間で、雑誌やテレビで好きな髪型を探したいと思います。

かつらが完成したとの連絡

「かつらが完成しました。ご都合の良い日を教えてください」
頭の型をとってから早くも2か月。
ついに連絡がありました。
連絡を受けたのが仕事中だったので、夜に家に帰宅してから都合を確認しました。
1週間後の平日が都合がよかったので、会社は有給休暇にして伺うことにしました。

この時点で、そわそわし始めました。
宿題となっていた髪型については全く検討していません。
そもそも小学校1年生から髪がないから、好みの髪型というものがない。
髪型について考えたこともない。
だから、髪型を考えることに違和感を感じてしまう。
なんとなく恥ずかしいのです。
僕は清潔感のある姿が好きなので、ビジネスマン風の髪型にしてもらうことにしました。
ちょうどそのころ、テレビドラマ「半沢直樹」が大ブーム。
少しだけ悩んで、これしかないと決断しました。
髪が短すぎるのではないか、というのが唯一不安でした。

事務所を訪問する

訪問する前に、納品時に収めるお金を準備しておきました。
電車にのって、事務所まで向かいました。
持ち物は、髪型の写真のみ。

2か月ぶりの訪問。
いつものお二方に加え、今回は美容師さんも来てくださっていました。
全部で3人+私という4人だけの空間です。
完成したかつらを見せていただきました。
すごく髪質が良い。
見るからに自然でした。
この時点では、髪の毛の長さは均一に長い。
まだ髪の毛を植え付けただけの、カットしていない状態です。
ここからすべてが始まるようです。

かつらをカットする

カットを始めることにしました。
半沢直樹の写真を見せたら、みなさん笑っていました。
髪が短いことについては、全然問題ないようです。

まず、かつらをかぶります。
驚きました。
頭に完全にフィットする。
型をとってかつらを作ってもらったので当然といえば当然なのですが、
思ってもみないほどすっぽりはまり驚愕しました。
話によると、はめただけでも普通の行動の範囲内であれば、外れないそうです。

美容師さんが髪を切り始めました。 最初は髪の毛が女性のように長いので、ばっさりと切っていきます。
髪の毛を切ってもらう感覚というのはほとんどないのですが、小さい頃髪の毛があったころの感覚を思い出します。
徐々に髪の毛が短くなっていきます。
だんだんと男性の頭髪になってきました。
美容師さんとはいろいろ話をしながら、進めていきます。
僕はビジネスマン風にお願いしていたので、後頭部から側頭部については簡単に進みました。
前髪については、慎重に進めていきます。
分け目をどうするか、どんな風に髪を流すのか、長さはどれくらいがいいか。
特に細かい指示をするつもりもなかったのですが、前髪は印象がガラリと変わってくるので真剣になりました。
かつらなので、髪の毛が自然に生えてくることはありません。
失敗できないという緊張感もあってゆっくり慎重に進めました。
髪型がおおよそ完成。
一度、その状態でかつらを取り外します。
そして、かつらを洗います。
髪は渇く瞬間にカタチが決まるそうで、かつらを一度洗ってみると雰囲気が変わるそうです。
かつらをシャンプーで洗い、トリートメントを行い、ドライヤーで乾かします。
そして、再度かつらをかぶる。
髪の雰囲気が少し変わっていました。
髪を整えて、完成状態にもっていきました。
ここまでのカットに数時間かかりました。

かつらをした感想

カットが終わりました。
一人の時間をいただき、部屋の鏡で自分の姿を何度も見ました。
感じたことは、すごくいいということです。
髪の毛を整える経験なんてほぼないので、ついつい前髪を何度も触ってしまいます。
自分の髪の毛が生えて入れた、この風になっていたんだと思いました。
とても感慨深いことでした。
かっこいいのか、それほどでもないのか、自分自身では分かりません。
自分自身が動揺していたようです。

かつらをして帰宅する

スタッフの方に感謝を言葉をつげ、帰宅の途につきました。
もちろん、かつらはつけたままの状態。
はじめてのかつらでの外出です。
とても緊張しました。
東京駅で乗り換え、山手線に乗車、その後JRで移動。
周りは人だらけでした。
電車のなかでも、周りの人たちとすごく接近している。
心のなかは常にドキドキしていました。

ばれたらどうしよう。
やっぱりそう思うのです。
でも、意外でした。
誰も気が付かない。
至近距離で向かい合っている人も、特に何も感じていないようでした。
徐々に自信をもてるようになってきました。
家に着くころには、少しだけ堂々としていたかもしれません。
かつらでの第一歩を踏み出した。
そんな思い出となる電車でした。
そうこうしているうちに、家に到着しました。

妻に感想を聞く

家の扉の鍵を開け、ただいまと言って部屋に入りました。
妻は、台所で料理をしているようでした。
この時点で、妻にはかつらのことを全くの内緒にしています。
かつらを作りにいってきたこと自体、内緒。
かつらにお金をだしたことも、もちろん内緒。
内緒ずくしなので、もうどうにでもなれです。

リビングの扉を大きく開ける前に、すきまから妻に叫びました。
「ちょっと驚くことがあるけれど許してね」
こんな風に言いました。
そして、不審そうにこちらを観ている妻。
勇気をもって、扉をあけました。

妻はすごく驚いていました。
言葉を失っているという状態。
その態度はごくごく普通のことだと思った。
なんだこれ、と思ったに違いない。
「かつらを買ってみたんだ」というと、「いいじゃん、似合うよ」と言ってくれました。
その後も妻は、すごく緊張しているような表情が続きました。
知らない人が家にいるように思えたようです。

その日は、妻が作ってくれた夕食を、かつらをした状態で食べました。
明らかに妻は挙動不審になっていました。
いいね、とか、全然分からない、とコメントしてくれました。 少し面白い体験となりました。

その後

せっかく作ったかつらですが、実は、あまり実生活では使っていない。
僕は、何もかぶらないで生活することになれてしまっていました。
だから、かつらをしないほうが楽なのです。

ときどき出かけるときに、気分転換にかつらをしてみようかなと思っています。
かつらの品質が良いことは、保管して客観的にみているとよくわかります。
本物の髪の毛を触っているみたい。
良いかつらを購入できてよかったです。

僕にとって、とても良い経験となりました。
(2014.4.19)